2026年10月3日、福岡・天神にある福岡銀行本店で開催された
**「FAF建築文化祭 ~福岡銀行本店の魅力再発見~」**へ参加してきました。
福岡銀行本店は、建築家・黒川紀章氏の設計により1975年に竣工した建築です。

天神を訪れるたびに何度も目にしてきた建物ですが、今回は建築についてのお話を伺いながら、普段はなかなか見ることのできない内部や、細かなディテールまでじっくり見学することができました。
約50年前につくられた建築。
けれど実際に歩いてみると、単に「昔の建物」という印象ではありません。
今の建築やインテリアにもつながる考え方や、長い時間を経たからこその素材の美しさが随所にあり、とても興味深い時間となりました。
外壁に意識された「利休鼠」
まず建物を改めて眺めて印象に残ったのが、外壁の落ち着いた色合いです。
今回のお話では、外壁の色は日本の伝統色である**「利休鼠(りきゅうねず)」を意識された**と伺いました。
利休鼠は、緑みを含んだ落ち着きのある鼠色。
派手さはないのに存在感があり、約50年を経た今の街並みの中でも独特の雰囲気を感じます。
黒川紀章氏の建築というと、まず大胆な建築の形に目が向きますが、こうした日本的な色彩感覚が外観にも取り入れられていることを知ると、建物の見え方がまた少し変わります。
インテリアの仕事でも、同じ「グレー」でも青み、黄み、緑みなどによって空間の印象は大きく変わります。
建物の形だけではなく、**「なぜこの色なのか」**まで知ることができたのも、今回の見学の面白さでした。
銀行でありながら「街へ開く」という発想
そして、福岡銀行本店を特徴づけているのが、建物の一部を大胆に切り取ったような大きな吹抜けの空間です。
天神という街の中心にありながら、敷地いっぱいを建物で埋めるのではなく、人々のための大きな空間がつくられています。
今回のお話の中で、とても興味深いエピソードを伺いました。
設計された当時は「銀行」という建物の性質上、セキュリティの面から、これほど街に開かれた空間をつくることについて、役員の方々から反対の声もあったそうです。
それに対して黒川紀章氏が、この空間をつくる意味や設計意図を説明され、最終的に採用へ至ったとのこと。
今では、建物と街をつなぐオープンスペースを設ける建築も目にしますが、この建物が竣工したのは1975年です。
しかも、セキュリティが重要な銀行本店。
約50年前に、建物を閉じるのではなく、街や人に対して「開く」という発想が取り入れられていたことに驚きました。
実際にその場所に立ってみると、建物の「中」なのか「外」なのか、その境界が曖昧になるような感覚があります。
そして約50年を経た現在も、人々が行き交い、さまざまな催しに使われている。
当時考えられた「街へ開く」という設計思想が、今も生き続けていることがとても印象的でした。

図面と実物から見る、階段手すりの物語
今回、インテリアコーディネーターとして特に興味をひかれたのが、階段の手すりです。
一見すると、とてもシンプル。
けれど近くで見ると、手で触れる部分は滑らかな曲線を描き、細い縦桟とのバランスや、石の階段との取り合いまで繊細にデザインされています。
今回は当時の図面も展示されていて、図面と目の前にある実物を見比べることができました。
そして、この手すりについても興味深いお話を伺いました。
福岡銀行本店の意匠設計に携わった髙井實氏は、黒川紀章建築・都市設計事務所に入る以前、村野藤吾建築事務所に在籍されていた方です。
今回のお話では、この階段手すりのデザインにも、村野藤吾氏の建築から受けた影響があると伺いました。
そのお話を聞いてから改めて手すりを見ると、見え方が変わります。
建築は「誰が設計した建物なのか」ということだけではなく、そこに携わった人が、それまで誰から学び、何を見て、どのような経験を積んできたのか。
そうしたものまで、小さなディテールの中に受け継がれていくのだと感じました。


扉、照明、石……細部を見る楽しさ
建物の中を歩いていると、ほかにも思わず足を止めてしまうものがたくさんありました。
石の壁、真鍮色の手すり、照明、特徴的な扉、家具……。
大きな建築では建物全体の形に目が向きがちですが、近づいて見ると、細かな部分まで丁寧に考えられていることが分かります。
そして約50年という時間を経た金属や石、木には、新しい素材にはない表情があります。
住宅のインテリアでも同じですが、空間の印象は壁や床、家具といった大きなものだけで決まるわけではありません。
手すりや取っ手、照明など、一つひとつの小さなディテールの積み重ねが、その空間らしさをつくっている。
改めてそんなことを感じました。
FFGホールで圧倒された「松のブロック」
そして今回、特に「すごい」と感じた場所のひとつが、地下にあるFFGホールです。
直線的で重厚感のある外観とは対照的に、ホールへ入ると柔らかな曲線に包まれた空間が広がります。
中でも圧倒されたのが、壁一面に立体的に組み上げられた松のブロック。
近くまで行って見ると、一つひとつの木の厚みや凹凸、重なりがよく分かります。
それらが連続することで、まるで大きな波のような表情が生まれています。
少し離れてホール全体を見ると、凹凸によって光と影が生まれ、壁そのものが大きな造形作品のようにも見えました。
そして、ここは音楽を聴くためのホール。
見た目の美しさだけではなく、音のための空間として考えられていることも、とても興味深く感じました。
今回は実際にこの空間で音を聴くこともできました。
写真だけでは分からない木の質感、空間のスケール、そして音の響き。
建築は目で見るだけではなく、耳や身体でも感じるもの。
そんなことを改めて感じさせてくれる空間でした。


広場の下にホールがあるという面白さ
さらに興味深いのが、このホールの位置です。
地上には街へ大きく開かれた空間があり、その下には文化や音楽を楽しむホールがつくられています。
銀行という建物の中に、金融機関としての機能だけではなく、人が集まり、文化に触れる場所まで計画されている。
建物だけを単独で考えるのではなく、街や人との関係まで含めて建築を考える。
今回お話を伺いながら実際の空間を歩いたことで、この建物がつくられた背景を少し身近に感じることができました。
約50年を経ても心に残るデザイン
今回、福岡銀行本店をじっくり見ていて何度も思ったのが、
「約50年前につくられたのに、なぜこんなに魅力を感じるのだろう」
ということでした。
もちろん年月を感じる部分はあります。
でも、それが必ずしもマイナスではありません。
使い込まれた金属の風合い、石の表情、木の質感。
時間が加わることで、むしろ魅力が増しているものもあります。
流行だけを追ったデザインではなく、素材を選び、細部まで考え、人がどう歩き、どう触れ、どう過ごすのかまで考えてつくられたもの。
だからこそ、長い時間が経っても人の心に残るのかもしれません。
インテリアの仕事にもつながる「建築を見る時間」
私は普段、新築やリノベーションで、内装材、照明、家具、カーテンなどをご提案する仕事をしています。
住宅と今回のような大きな建築では、もちろんスケールはまったく違います。
それでも、
素材をどう使うのか。
色をどう選ぶのか。
人が触れる部分をどうつくるのか。
光をどう取り入れるのか。
その場所で人がどう過ごすのか。
考えることには共通するものがあります。
図面だけでは分からないこと。
写真だけでは分からないこと。
実際にその場所へ行き、素材に近づき、空間のスケールを感じ、そこに携わった方々のお話を聞く。
こういう時間は、やはり大切です。
「建築を見る」ことは、私にとって仕事のためだけではなく、とても楽しい学びの時間でもあります。
今回見て、聞いて、感じたことを、これからのインテリアやリノベーションの仕事にも少しずつ生かしていきたいと思います。
約50年という時間を重ねても、まだ新しい発見をさせてくれる福岡銀行本店。
とても学びの多い一日となりました。
